マサカズ雑記帳

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ドゥテルテ大統領の外交に影響か?フィリピン軍の現状

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(フィリピン軍のV-150コマンドゥ装甲車)
 フィリピンの新しい大統領であるドゥテルテ氏が来日し、大型巡視船2隻と海自の練習機を貸与する事が政府間で決まった。だが来日する前に訪問した中国でドゥテルテ大統領は「経済的にも軍事的にもアメリカと決別する」と述べ、来日しても「外国軍隊には2年以内には撤退して欲しい」とも述べた。
 反米と言われるドゥテルテ大統領の意思はともかく現在のフィリピンの防衛力はどうなっているのだろうか?

 フィリピン軍はアメリカ議会がアメリカの植民地であるフィリピンが10年後の独立を約束する法律を可決させた1934年に創設された歴史がある。太平洋戦争ではアメリカ軍と共にフィリピン軍は日本軍と戦った戦歴もある。
 太平洋戦争後はアメリカの同盟国として米比相互防衛条約を1951年に結びフィリピン国内に米軍が駐留し米軍と共にフィリピンを守り朝鮮戦争では国連軍の一員として戦った。
 だが米ソ冷戦が終結した後の1991年にピナツボ火山が噴火してフィリピンでの基地機能が低下したりフィリピン国内での米兵による事件が大きな外交や社会問題となり1992年にはフィリピンから米軍は撤退する。
 現在は経済力を高め軍備を増強した中国による南沙諸島の強い領有化・基地化やスカボロー礁への進出とフィリピンは領海・領土の保全に苦悩している。
 そのフィリピン軍は現在陸軍が現役が8万6000人で即応予備と言えるCAFGEが4万人・予備役10万人居ると言われる。他にも地上戦力は海軍の海兵隊8600人に4万人の国家警察がある。
 だが戦車は無くイギリス製FV101偵察戦闘車が41両にアメリカ製V-150コマンドゥ装甲車155両やM113装甲兵員輸送車が143両と他国の戦車部隊と戦うような装甲車輌は備えていない。これはフィリピンの軍事が国内の治安維持に重点を置いているからだ。
 フィリピンは太平洋戦争終結から共産主義勢力の鎮圧に始まり新人民軍、モロ民族解放戦線モロ・イスラム解放戦線、アブサヤフと言った反政府武装勢力が現れ闘争を繰り広げた。
 現在はアブサヤフがフィリピンからマレーシアなどへ活動地域を移しモロ・イスラム解放戦線などと和平に合意してはいるが新人民軍はまだ政府との戦いを続けている。
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(対ゲリラ戦を展開中のフィリピン軍)

 フィリピン軍はこの長い対ゲリラ戦と言う実戦をする軍隊になり戦車や自走砲を備えた重機械化部隊ではなく装甲車両は偵察車や兵士を運ぶ装甲車である軽装備の部隊で整備されている。
 対ゲリラ戦は空軍も行っている。OV-10観測機10機により偵察と対地支援を行っている。空軍も半ば対ゲリラ戦仕様となっている。
 フィリピン空軍はF-5やF-8などアメリカ製戦闘機を以前は装備していたがアメリカからの軍事援助をあまり受けられなくなった事や予算の都合から現在はイタリア製S-211攻撃機3機とОV-10など十数機しか作戦に使える機体は無い。
 新しく韓国からFA-50を15機導入し昨年から機体の配備が進んでいるがFA-50は元がT-50練習機でありフィリピン空軍で戦う航空機はゲリラへの対地攻撃ができるCOIN機や攻撃機ばかりである。
 つまり現在のフィリピン空軍に戦闘機は無く制空権を確保する事はできない。
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  (数の上では主力のОV-10観測機)

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(フィリピン空軍で最新機種となるFA-50)

 
 海軍はフリゲート艦3隻・コルベット艦12隻・哨戒艇または高速艇51隻・揚陸艦11隻と少なくない規模である。
 フリゲート艦はアメリカ沿岸警備隊が使っていた「ハミルトン」級警備艦フリゲート艦にした「グレゴリオ・デル・ピラール」と「ラモン・アルカス」の2隻と太平洋戦争中の1943年に建造されたアメリカの「キャノン」級護衛駆逐艦フリゲート艦とした「ラジャ・フマボン」がある。
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フリゲート艦「ラジャ・フマボン」)

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フリゲート艦「グレゴリオ・デル・ピラール」)

 コルベット艦はイギリス製「ピーコック」級哨戒艦3隻にアメリカ製「リサール」級コルベット2隻・「ミゲル」級コルベット7隻がある。
 コルベット艦は「ピーコック」級が1980年代建造の艦に対して他が太平洋戦争の頃に建造された「ラジャ・フマボン」と変わらない古い艦である。
 フィリピン海軍も骨董品と言える艦に甘んじる事なく韓国から「浦項」級コルベット1隻の導入を決定している。だが全体のリニューアルにはほど遠い。
 この古い艦艇の問題は各種ミサイルや対潜水艦装備が無いと言う武器の面でも時代遅れになっている。
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インドネシアから購入した輸送艦「ターラック」がフィリピン海軍では最新の艦である)
 現在のフィリピン軍は対ゲリラ戦重視であり他国の正規軍と戦うには数でも質でも全く太刀打ちができない。これでアメリカと決別すると言うドゥテルテ大統領の発言はアメリカ抜きで国防上自立できない筈なのに無謀を選んだと見える。
 だが最大の敵国と言える中国への接近はこうした貧弱な軍事力を考えれば選択肢の一つと言える。中国と対立してもその差は歴然としている。
 アメリカが無償で戦闘機やパイロットの訓練を無償で提供すれば別なのかもしれない。今回の訪日で日本政府が大型巡視船2隻を円借款とはいえ提供した事で「日本は一番の支援者」と言わしめたのはそうしたフィリピンの軍事力の内情があるからだ。
 現在のフィリピンは一時的に米軍が入る事を認め基地の使用も認めつつありミンダナオ島にはゲリラ掃討作戦の支援として米軍特殊部隊が駐留しているとされている。こうした米軍の存在が無くなった場合は幾らか装備を新しくしたフィリピン軍が中国に立ち向かう事はできない。
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(合同演習で笑顔で握手するアメリカ軍とフィリピン軍の兵士。この関係はもうすぐ終わるのだろうか?)

 もしかすると米軍が完全に去ったフィリピンに中国軍が代わって駐留するかもしれない。または米中両軍の駐留を認めない中立地帯となるかもしれない。
 米中に挟まれたフィリピンが緊張が高まる南シナ海でどう立ち回るか目が離せない。