マサカズ雑記帳

ミリタリーやアニメなどについて思った事や行った所について書いていきます。

「シン・ゴジラ」と「この世界の片隅に」から見るSNS時代のエンターテインメント

 2016年は映画「君の名は」が大ヒットしたのが特徴的だ。

 日本映画の記録を塗り替えるまでに「君の名は」を引き上げたのはSNSによる盛り上がりだった。

作品を勧める口コミや作品を見て作品のファンになった人が作品のキャラクターをイラストで描いたりストーリーについての考察を挙げたりとネット上で盛り上がる現象である。

映画の配給会社や評論家ではない一般の意見や応援が見ていない人達の関心を呼び更にはTVや雑誌などのマスコミに広がり大きくなる。この現象が作品をヒットさせる大きな起爆剤となった。

今回は私の体験から「シン・ゴジラ」と「この世界の片隅に」からSNSでの映画作品の盛り上がりを語っていきます。

 

SNSが持つ盛り上がりでヒットした今年の映画では12ぶりに日本で制作されたゴジラ作品である「シン・ゴジラ」も興行収入80億円を突破した。ゴジラ作品歴代では2001年の「ゴジラモスラキングギドラ大怪獣総攻撃」の27億円がこれまで最高だった事を考えると「シン・ゴジラ」が抜きん出た作品だと分かる。

シン・ゴジラ」は大ヒットアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の庵野秀明監督が手掛けると言う注目度があったがゴジラ作品がここまで大ヒットするものとは思わなかった。

人気を牽引したのがSNSであったのは間違いない。

当時のTwitterの反応は「凄い作品を見た。見ないと損」と言う内容が多かった。

シン・ゴジラ」に関して制作サイドが作品内容の情報を公開までかなり控えていた為に見た時のインパクトが生じたのもある。

 確かに今までのゴジラシリーズと比べると第1作に近い社会派の内容でドラマとCGによって現実の日本にゴジラが襲来したような出来で観客を驚かせたと言える。

 そうしたリアルさから政府や自衛隊に鉄道に関する考察がTwitterでは色々と挙がり映画では描き切れないゴジラの襲来に見舞われる市民に想像が広がる。

 その広がる想像が「シン・ゴジラ」ではゴジラを倒す事を研究し実行する「巨災対」のメンバーをイラストで描きメンバー同士の会話を想像するのに及んだ。

また「シン・ゴジラ」の制作にあたったスタジオカラーが劇中でどんな日時で進んでいたかのタイムスケジュールを発表し、Twitterではそのタイムスケジュールを追うようにツイートするアカウントが登場し盛り上がる。

劇中の出来事に沿いその当事者になりきりツイートを挙げると言う遊びが広がった。「シン・ゴジラ」の登場人物をはじめ、自衛隊や警察・マスコミに鉄道会社の関係者になりきりゴジラが出現した時や自衛隊の総攻撃などの状況を語り映画では描かれていない部分を補完するようなものになっていた。

シン・ゴジラ」は作品の素晴らしさもあるが知識を語りたい人達や登場人物のキャラクターを描いたりしたい人に作品の二次創作または同人的とも言える遊びができる余地があったからネットで盛り上がった。

 

 またSNSの盛り上がりでヒット作へと導いたのが「この世界の片隅に」である。

 大きなスポンサーを得られずクラウドファンディングで製作費を調達した「この世界の片隅に」は宣伝と言う部分ではハンディキャップのある公開スタートであった。

 公開直後も現在もTVCMを私は2回ほどしか見ていない。

 だが現状は興行収入を7億円越えるヒット作になっている。乏しい宣伝でありながらこの興行収入は驚くべき事だ。

 作品自体がクラウドファンディングで2000万円の目標で集めたら3600万円以上も製作費が集まる程にネット上では注目度が高かった。

 また監督の片渕須直さんがロケハンで広島や呉を訪れ作品が知られていた部分もあったが「この世界の片隅に」を公開前から待ち望んでいた多くがSNSでその進捗情報を見ていた人達ではないかと思う。

 片渕監督が「この世界の片隅に」に関してのツイートを即座に片渕監督のアカウントでリツートや「いいね」の反応をしていたのもSNSでのファンを繋いだ一助であったのは間違いない。

公開後は「シン・ゴジラ」同様に「見るべき」と言うお勧めの口コミツイートが多く流れた。アニメに関してのまとめサイトの反応を見ると好評の意見ばかりで戸惑っている様子が散見された。

 太平洋戦争当時の呉市広島市をよく描いている作品でありツイートでは母や祖母を連れと言う内容も段々増えた。リピーターが新たな観客を呼び込み当時を知る人達の好評が拡散される。

 SNSは拡散による炎上がよく知られているが「この世界の片隅に」の拡散は新たな観客とリピーターを増やす好循環と言える展開を見せていた。

 興行成績の伸びやSNSでの好評から最近はTVで特集される事が多くなりSNSから遠い人にも作品の存在が広まるところまで来ている。

 「シン・ゴジラ」の部分で書いたような考察語りはミリタリーや歴史の方で即座に始まりキャラクターを描く遊びもである。

 また「この世界の片隅に」の主人公である「すず」が絵を描くのが趣味と言うところから同人誌を作りオタ的な会話をすると言う遊びをしている。またスタッフの一人が絵コンテで描いた目つきの悪いすずが片渕監督が手掛けたTVアニメ「BLACK LAGOON」のレヴィと言うキャラに似ているせいで「こんなすずは嫌だ」と言うタグが付き原作でも映画でもありえない、ずずの姿を書き遊ぶ様子も見られた。

 

 今年はNHK大河ドラマ真田丸」がヒットした。

 視聴率低迷に悩んでいた近年の大河ドラマにあって「真田丸」はようやくのヒット作になった。

 三谷幸喜脚本によるコミカルさを主人公である真田信繁を演じる堺雅人さんや真田昌幸を演じる草刈民雄さんが面白く演じたのもある。

 そうした作品の良さをSNSで語り丸絵というタグで登場人物のイラストや漫画を描いて挙げドラマの歴史考証担当など専門家も出て来る知識を語るツイートも出て盛り上がる。

 また真田丸のツイートで特徴的なのは真田信之の役で大泉洋さんが出演しているのでバラエティ番組「水曜どうでしょう」のネタを絡めた「真田丸どうでしょう」というタグの出現だ。

 「水曜どうでしょう」で出たテロップを「真田丸」の大泉さんもとい信之が出ている場面に合成する遊びが大いに広がった。

 2016年は映画やドラマのメディアはSNSの評価と同時に「繋がる」と言う部分において同じ作品を愛好するファンが作品を語り遊ぶ場にもなり広がる様も見せた。

 SNSが既存のマスメディアと異なる情報源ににもなりファンの遊び場としての許容があるかどうかも興行収入に繋がる事を示している。

 だがひとえに「シン・ゴジラ」や「この世界の片隅に」・「真田丸」のようなコアなファンを幾つも掴みリピーターを得るのは難しい。歴史や軍事などの濃い考証と情報量に愛されるキャラクターとストーリーを組み合わせ面白い作品に仕上げるのは真似できるものではない。

しかし「シン・ゴジラ」も「この世界の片隅に」も興行成績に関して当初は期待されたものではなかった。「シン・ゴジラ」は最終見込みが40億円と言われていたのが今や2倍の興行収入であり、「この世界の片隅に」は公開する劇場が63館から始まり今では180館以上になり増え続けている。

シン・ゴジラ」と「この世界の片隅に」におけるSNSの効果を応用するとしたら商業的には期待が薄いもののコアなファンが見込める作品の盛り上げ方として見るべきだろう。