中国空母「遼寧」太平洋進出の見方
12月25日午前に中国海軍の空母「遼寧」が7隻の艦艇と共に沖縄県宮古島沖の海域を通過して太平洋に出た。
「遼寧」だけで見ると今まで中国近海での航行しかしていない「遼寧」が太平洋へと遠くへ出る乗員の能力を伸ばす機会と言える。中国から日本へ西太平洋での訓練で空母が通過する事が通告されていたとはいえ日本から見れば脅威である。
では「遼寧」の脅威とその脅威の向き合い方をどうすれば良いだろうか?
〇空母「遼寧」とは?
中国は2001年にマカオの中国系企業がテーマパークとして使うと交渉しウクライナから旧ソ連空母「ワリヤーグ」を購入した。
「ワリヤーグ」はソ連崩壊により未完成の状態で放置された空母だった。中国は「ワリヤーグ」をテーマパークではなく空母として完成させ2012年に中国海軍空母として就役させる。
「遼寧」は満排水量7万トン近くアメリカの「ニミッツ」級に次ぐ大型空母だ。
載せている機体はロシアから購入したSu‐33をモデルにしたJ-15戦闘機を22機搭載し中国周辺の国々が持つ戦闘機なら互角に戦える機体だ。(ステルス戦闘機は除く)
「遼寧」は強力な空母と見えるが機関は「ワリヤーグ」が中国に到着した時には無く船舶用のディーゼルエンジンを代わりに搭載したとも言われている。この為に本来なら最高で29ノットの航行できるがエンジンが違う為に19ノットになってしまったとされている。
第一線の戦闘機を運用できるものの機関に難がある。それは「遼寧」である。
〇「遼寧」だけ見ていてはいけない。
「遼寧」はそもそも旧ソ連の未完成空母を買い取り完成させて動かしている。古い空母でありアメリカの空母のような航空機の発進に使うカタパルトが無いので見劣りする空母であると言う意見がある。
確かにその通りである。しかし中国は2隻の空母を建造中であり「遼寧」だけを見て侮るものではない。たとえ「遼寧」が見劣りしていても空母を運用する経験を中国海軍は今も積み続けている。「遼寧」で鍛えられた人材が将来の中国空母をより脅威ある戦力にする筈だ。
〇「遼寧」艦隊が太平洋へ出た意味とは?
「遼寧」は駆逐艦3隻とフリゲート艦3隻に補給艦1隻を伴い宮古島沖を通過して太平洋へ出た。これは中国海軍が空母機動部隊を太平洋側へ展開させる事ができると言う意志を示しているし中国が設定した戦略的概念である2つの列島線の内で第1列島線を越えての作戦行動を可能にさせる意味もあると思われる。
政治的にはトランプ次期アメリカ大統領就任前と日本の安倍総理の真珠湾訪問に合わせた示威行動だろう。
アメリカの政権交代と日米の連携が強化される流れに東アジアと太平洋で中国の存在感を強調したいのではと思われる。
〇中国艦隊は太平洋を席巻するか?
5年前の2011年6月に中国軍は駆逐艦3隻にフリゲート艦4隻・支援艦艇4隻の11隻で宮古島沖から太平洋に出た時があった。中国は以前から艦隊で第1列島線を越えて展開させる行動をしていた。
中国海軍が太平洋に出るのは中国本土にアメリカ海軍などの外国軍が接近するのを阻止する接近拒否戦略に基づくと言える。敵が遠くに居る時から叩くと言うのが中国軍の理想だが中国海軍は太平洋に拠点が無い。
太平洋諸国に影響力はあるものの基地を作るまでには至っていない。仮に出来たとしてもアメリカの勢力圏で孤立するだけであるから有事には役立たない拠点になる。
中国は地理的に考えると前面に日本・台湾・フィリピンがある。しかも中国と友好的とは言い難い国ばかりだ。中国にとっては壁があるのに等しい。中国がフィリピンか日本を支配下に置くか日米同盟のような深い同盟関係しない限り中国が摩擦無く太平洋へ出る航路は獲得できない。
中国海軍は黄海・東シナ海・南シナ海での行動を重視した外側へ打って出る海軍ではなく領域の内側を守る海軍にならざる得ない。
では今回の「遼寧」など太平洋へ出ようとする中国軍の動きは何か?
太平洋へも戦力を進められると示しアメリカと対等の大国だと見せる行動だと思われる。遠距離での作戦能力強化もあるが各国の海軍が行うようなパワープロジェクションが出来ると見せているのだと思う。
経済ではアジアインフラ投資銀行の創設やアフリカ諸国を中心とした資金やインフラの提供にイギリスへの7兆円の投資など経済面でも大国としての見栄を張る事に余念がない。軍事でも同じで「遼寧」などの太平洋進出は大国として見栄を張れるんだと中国は示したいのだ。
「遼寧」の太平洋進出は後の技術蓄積と大国と肩を並べる野心を抱き続ける中国が見える。油断ならぬ国として見るのがいいだろう。
・資料
雑誌「軍事研究」