自衛隊は感染拡大の状況でどう動くのか?
世界規模で感染拡大が続く新型コロナウィルス
日本でも日々感染者が増えている状だ。
その中で自衛隊は感染者が出たクルーズ船での活動に羽田空港や成田空港での検疫強化に出動している。
政府が緊急事態宣言を布告するかもしれない状況下にある今、自衛隊は感染拡大にどんな活動をするのだろうか?
〇出動は災害派遣
派遣の名目は「新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のための帰国邦人等の救援に係る災害派遣」でした。
この派遣命令で自衛隊は中国武漢からの帰国者が宿泊する施設へ衛生隊員40人を送り生活支援の活動を始めました。
2月6日から横浜港に到着したクルーズ船「ダイヤモンドプリンセス」での生活支援を始めます。
この災害派遣は3月16日に河野大臣による撤収命令で終わります。
3月28日に河野大臣は自衛隊に災害派遣を命じて羽田空港と成田空港の検疫態勢強化に医官など隊員を派遣しています。
新型コロナウィルスに対して自衛隊は災害派遣で出動しています。
災害派遣と言うと被災地の都道府県知事からの要請を受けて自衛隊が出動する事が多いですが、災害派遣について定める自衛隊法第八十三条二項では防衛大臣が「事態やむ得ないと認められる場合」・「要請を待ついとまがないと認められる場合」に部隊を派遣できると定められています。
今回の新型コロナウィルスに対応する災害派遣はこの自衛隊法第八十三条二項ただし書きによる防衛大臣の命令での出動が行われました。
要請による出動も行われています。
4月3日には長崎県知事の要請で海上自衛隊のUH-60Jが新型肺炎で入院中の患者を壱岐空港から海自大村基地へ運び、同じ日には鹿児島県知事の要請で諏訪之瀬から鹿児島市へ発熱を訴える患者を海自のUH-60Jが搬送しました。
また4月4日~6日にかけて陸上自衛隊東北方面隊から医官2名が仙台市内に派遣されてPCR検査の支援に出動している。
また自衛隊中央病院は1月30日から武漢からの帰国者で発症した患者の受け入れを始め現在も新型肺炎の患者を受け入れている。
〇緊急事態宣言で自衛隊が出来る事
政府が布告するかもしれない緊急事態宣言
宣言が出されても自衛隊が出動する場合は災害派遣に変わりはないでしょう。
新型コロナウィルスが他国の軍隊またはテロリストが持ち込んだ兵器という訳では無く人から人へ感染が繋がって日本国内に広がった災害として定義されているからです。
なので緊急事態宣言が政府から出されたとしても武装した自衛隊員が警備に立つ事はまず行わないでしょう。
では、緊急事態宣言の状況下で自衛隊は何が出来るのか?
それは「ダイヤモンド・プリンセス」での行動や現在行われている派遣活動と変わらないでしょう。
感染者を医療機関へ自衛隊の車輌または航空機で搬送したり。自衛隊の医官が検査を行うなど派遣の支援活動です。
考えられる増える活動としては感染拡大で運送会社のトラックドライバーが不足した場合に自衛隊のトラックが運送会社の代替に物資を運ぶ事もあるでしょう。
また、中国の火神山医院のように病院を急造する場合に自衛隊の建設能力がある施設科が建設を行ったり、自衛隊の医療部門である衛生科がその病院を運営する事もあるかもしれません。
そこまで自衛隊が行うとすれば民間の能力が相当に低下した場合です。
運送会社や建設業者に一般の病院がまだ健在なら緊急事態宣言下でも自衛隊が出動する場面は少ないでしょう。
災害派遣の実施に際しての要件には「非代替性」があります。
これは自衛隊が出動する以外に手段が無い場合を指します。今回の感染拡大で運送業や医療業務を自衛隊が前面に出て代わりに行うのは要件の「非代替性」に照らして自衛隊以外に頼める人達が居ない状況になります。
まだ現状では自衛隊以外に手段が無いとまで行かない状況なので、東京都内のビジネスホテルへの自衛隊員派遣も都の職員や医療関係者の業務を支援すると言う事で派遣されているのです。
〇自衛隊は強権を執行するのか?
外出禁止令が出ているフランスでは警察官が外出している一般人に特例外出証明書の提示を求めて提示しないなどの違反者を取り締まっています。
フィリピンでは感染拡大を阻止する為の移動制限措置の違反者に対してドゥテルテ大統領は「違反者がトラブルを起こすようなら射殺するよう警察と軍に命じた」と発言している。
海外では治安当局が秩序維持に厳しい態勢を取っています。
では自衛隊が感染拡大の異常事態で秩序を守る為に動くのか?
自衛隊が秩序の維持に出動するのは自衛隊法第八十一条の治安出動です。これは警察では治安を保てない状況になった場合に出動するとされています。
治安出動での自衛隊は自衛隊施設の警備強化や必要に応じて警察官の輸送や資材や器材の提供を行うとされています。
前面に立って警備に当たると言うよりも警察の支援を行うようです。
それでも一応は自衛隊法第八十九条で警察官職務執行法七条の規定に従う形での武器使用が認められ実力行使はできます。
この武器使用は自衛隊員自身や守る対象の生命を守る為や公務の執行に抵抗した場合などです。また自衛隊法では銃火器や化学兵器などの武器を持つ対象に対して武器使用が出来ると追加されていますがこれは工作員やテロリストを想定したものです。
とはいえ、治安出動は大勢の暴徒や工作員やテロリストを想定したもので暴徒とまで行かないまでも秩序を乱す大衆の行動を抑える事は想定されていないと思われます。
では、感染地域のロックダウンを自衛隊は行う事はできるのか?
交通規制に関しては自衛隊法第九十二条四項では道路交通法第百十四条の五に基づく自衛隊車輌を優先通行させる為の交通規制が自衛官が行えるようです。
とはいえこれは防衛出動での事で外敵からの攻撃を円滑に排除する為に自衛隊車輌のみの通行が可能にできる条文です。
現行の法律では感染拡大によるロックダウンで自衛隊が封鎖線を敷き交通を規制する事はできません。
〇自衛隊に出来るのは支援
結論として自衛隊がこの新型コロナウィルスの感染拡大において出来るのは輸送や医官の派遣に自衛隊病院での患者受け入れと言う支援任務です。
もしも感染拡大による社会混乱で暴動が発生しても警察が持てる力の全てを使って鎮圧に当たると思われます。むしろ警察の負担が大きくなるかもしれません。
現行の法律に照らすと感染拡大で自衛隊が銃を持って治安維持を行ったり、感染地域の封鎖を行うなど映画で見るような行動はできないのです。
自衛隊はあくまで支援を行う裏方として感染拡大に協力するのです。